- 住宅新築工事で建具工事のみ自社施工し、他の全工事を下請に出したい
- 戸建住宅10戸の新築工事を受注したが、うち1戸を下請負させたい・・・
- 中間マージンなしで一括下請させた場合も、一括下請負になるの・・・
- 自社の技術者を現場に配置すれば、主要工事を下請に出しても一括下請にならないよね・・・
建設業法第22条1項で、「建設業者は、その請け負った建設工事を、いかなる方法をもってするのかを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない」と規定しています。
また、同法2項で、「建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負った建設工事を一括して請け負ってはならない」と規定しています。
これらの規定を、建設業の「一括下請負の禁止」と言っています。
建設業の一括下請負禁止
建設業者は、自らが請け負った建設工事の完成について誠実に履行する重い責任を負います。
従って、元請業者として下請業者に工事を出した場合、元請業者がその下請工事に実質的に関与していないと、一括下請負と判断されてしまいます。
建設業者様の中には、この「実質的に関与」について、誤解されていたり、良く理解されていなかったりするケースが多く見受けられます。
今回は、建設業の一括下請負の禁止について、この規定の趣旨と目的を踏まえて、その概略をご説明したいと思います。
一括下請負禁止の趣旨と目的
建設工事の発注者は、建設業者の選定の際、「過去の施工実績、施工能力、経営管理能力、資力、社会的信用」等いろいろな角度から建設業者の評価をしています。
従って、元請業者となった建設業者が受注した建設工事を一括して下請業者に請け負わせることは、発注者が建設工事の請負契約を締結するに際して元請業者に寄せた信頼を裏切ることになります。
また、一括下請負を認めれば、「中間搾取、工事の質の低下、労働条件の悪化、実際の工事の責任の不明確化が発生する」とともに「施工能力のない商業ブローカ的不良業者の輩出を招き」、建設業の健全な発展を著しく阻害する恐れがあります。
排除すべき一括下請負
一括下請負に当てはまるかの判断は、元請業者が発注者から請け負った建設工事1件ごとに判断されます。
また、建設工事1件の範囲は、原則、締結された請負契約単位で判断されます。
尚、元請業者の中間搾取の有無は、一括下請負に当てはまるか否かの判断には考慮されません。
従って、元請業者が一切利益を得ていなかったとしても、工事そのものを一括下請負したと判断されれば建設業法違反となります。
<一括下請負に当たる場合>
- 『請け負った建設工事の全部又はその主たる部分を一括して他人に請け負わせる場合(一)』
- 『請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物を一括して他人に請け負わせる場合(二)』
上記(一)(二)の場合において、元請業者がその下請工事の施工に実質的に関与していると認められないケースは一括下請負となってしまいます。
また、単に現場に技術者を置いているだけや、元請業者との間に直接的かつ恒常的な雇用関係のある的確な技術者を配置していない場合には、元請業者が下請工事の施工に実質的に関与しているとは認められません。
■(一)の例
◎ 請け負った一切の工事を他の1業者に施工させる場合
◎ 本体工事の全てを1業者に下請負させ、付帯工事のみを自ら又は他の下請業者が施工する場合
◎ 本体工事の大部分を1業者に下請負させ、本体工事のうち主要でない一部分を自ら又は下請業者が施工する場合
■(二)の例
◎ 戸建て住宅10戸の新築工事を請け負い、うち1戸の工事を1社に下請負させる場合
◎ 道路改修工事2㎞を請け負い、うち500m分について施工技術上分割しなければならない特段の理由がないにもかかわらず、その工事を1社に下請負させる場合
尚、下請業者が孫請業者に一括して下請負させることも禁止されています。
下請業者間でも一括下請負は禁止されているので注意してください。
一括下請負に当たらない実質的関与の場合
元請業者が工事の施工に実質的に関与していれば、一括下請負には当たりません。
では、実質的に関与とはどのようなことなのでしょうか。
実質的に関与とは、元請業者が自ら総合的に企画、調整及び指導を行うことを言っています。
具体的には、「施工計画の総合的な企画、工事全体の的確な施工を確保するための工程管理及び安全管理、工事目的物・工事仮設物・工事資材等の品質管理、下請業者間の施工の調整、下請業者に対する技術指導、監督等」がこれに当たります。
従って、単に現場に技術者を置いているだけの場合や、元請業者との間に直接的かつ恒常的な雇用関係のある的確な技術者を現場に配置していない場合は、実質的に関与していることにはなりません。
<発注者から直接建設工事を請け負った元請業者の場合>
発注者から直接建設工事を請け負った元請業者の場合、現場に配置した元請業者の主任技術者又は監理技術者は、次の全ての面で主体的役割を果たしていなければなりません。
その際、配置された技術者は、同種又は類似の工事での施工管理を行った経験の有無も判断の材料とされ、業務量に応じ他の必要な技術者を配置していることも求められます。
- 発注者との協議
- 住民への説明
- 官公庁等への届出等
- 近隣工事との調整
- 施工計画の作成
- 工程管理
- 出来型、品質管理
- 完成検査
- 安全管理
- 下請業者の施工調整、指導監督
一括下請負が許される場合
建設業法第22条3項では、一括下請負の禁止の例外を定めています。
と言うのは、建設業法は、一括下請負でも、請負代金の額が適正に定められた元請業者と下請業者の間に不当な中間搾取がなく、下請契約の内容も適正であり、工事の適正も保証されている場合は、一括下請負を禁止にする実益はないと考えているようです。
従って、入札契約適正化法に規定する公共工事や民間工事のうち共同住宅を新築する工事を除いて、元請業者があらかじめ発注者より書面による一括下請負の承諾を得た場合には、建設業法第22条3項が適用され、建設業法違反とはなりません。
注意すべきは、あらかじめ発注者の承諾を必要とするので、数次の下請の場合でも、必ず最初の注文者たる発注者の承諾を得ないといけません。
建設工事の一括下請負禁止(まとめ)
ここまで、建設業の一括下請負の禁止について、その趣旨と目的を踏まえ、概略をご説明してきました。
建設業は元請業者、下請業者、孫請業者と重層的構造で成り立っており、具体的な工事でもさまざまな専門工事や付帯工事の集合体で構成されています。
従って、建設業の健全な発展には、一括下請負についての厳しい規制はとても重要な意味を持っているのです。
<一括下請負の禁止の趣旨・目的>
- 発注者が建設業者に寄せた信頼を裏切る
- 施工責任があいまいになることで、手抜工事や労働条件の悪化につながる
- 中間搾取を目的に施工能力のない商業ブローカ的不良建設業者の輩出を招く
建設業者様においても、一括下請負の禁止についてのご理解を深めていただき、発注者、元請業者、下請業者間の信頼関係をより強めていただきたいと思います。
※一括下請負の禁止に違反した建設業者に対しては、行為の態様、情状等を勘案し、再発防止を計る観点から、監督処分(営業停止)等がなされます。
※尚、一括下請負は、元請業者だけではなく下請業者も監督処分(営業停止)の対象となります。