- 一級建築士がいるので、特定の建築一式工事を取得して良いよね
- 一級の施工管が社内に1人いるので、特定建設業許可を取得できるよね・・・
- 一級の施工管理技士がいるのに施工管理体制を作れないってどうして・・・
建設業者様の中には、社内に一級の国家資格者が在籍していることを機に、特定建設業許可を取得されたいとお考えの方がいらっしゃいます。
確かに、特定建設業許可を取得すると、元請業者として、下請業者に対する発注金額の制限がなくなり、取り組める工事の規模を大きくすることができます。
特定建設業許可を取得する際の注意点
しかし、取り組める工事規模が大きくなると、関係する下請業者も多くなるので、当然、元請業者としての責任も重くなってしまいます。
建設業許可制度は、特定建設業許可の取得に、一般建設業許可の取得とは異なる厳しい要件を課しています。
更に、建設業法においても、特定建設業許可を取得した者に、適正な施工体制の構築を求めています。
特に、建設工事の施工現場への配置する技術者(配置技術者)には十分注意する必要があります。
これらを忘れ、自社内に一級の国家資格者が在籍しているという理由だけで、特定建設業許可を取得してしまうと、後で困ったことになる可能性があります。
本記事では、建設業者様がそのような罠にはまらないよう、建設業許可制度や配置技術者の概要と注意点をおさらいいたします。
一般建設業と特定建設業の違い
建設工事の施工に際し、元請業者として締結する下請契約の規模によって特定建設業と一般建設業の区分があります。
一般建設業の許可業者は、発注者から直接請け負った建設工事を施工するために、総額4,000万円(建築一式工事の場合、6,000万円)以上の下請契約を締結することはできません。
他方、特定建設業の許可業者には、一般建設業の許可業者のような下請契約の金額制限はありません。
尚、この下請契約の金額制限は、元請業者のみ課されるもので、一次下請業者以降の建設業者には課されていません。
特定建設業許可の財産的基礎
特定建設業と一般建設業の許可要件の違いに、財産的基礎要件があります。
特定建設業許可を取得するには、申請時直近の確定した貸借対照表(定時株主総会の承認を得たもの)において、次の4つの事項を全て満足させる必要があります。
- 欠損の額が資本金の20%を超えないこと
- 流動比率が75%以上であること
- 資本金が2,000万円以上であること
- 自己資本が4,000万円以上であること
この特定建設業許可の財産的基礎要件は、建設業許可の更新申請毎に再度審査されます。
つまり、更新申請時においても、4つの事項のうちひとつでも欠くことになると、特定建設業許可を更新することはできなくなるのです。
特定建設業の許可業者になると、一般建設業許可に比べて、自社の決算状況の管理を厳しく求められているのです。
工事現場に配置すべき技術者(配置技術者)
次に、建設工事の施工管理体制、特に、施工現場の配置技術者について確認していきます。
建設業の許可業者様は、建設工事の適正な施工を確保するため、請け負った建設工事の施工現場に、一定の資格を有する技術者を配置しなければなりません。
その配置技術者は、建設工事の契約形態や下請契約の金額等によって、主任技術者と監理技術者に分けることができます。
<主任技術者>
建設業の許可業者様は、請負金額に関係なく、また、元請、下請に関係なく、工事現場における工事の施工上の管理をつかさどる者として、主任技術者を配置しなければなりません。
<監理技術者>
発注者から直接建設工事を請け負った建設工事を施工するために4,000万円(建築一式は6,000万円)以上の下請契約を締結する工事には、特定建設業許可を取得した上で、監理技術者を配置しなければなりません。
営業所における専任の配置技術者との関係
営業所の専任技術者(専技)は、営業所に常勤してその職務に従事しなければなりません。
但し、特例として、次の条件を全て満たす場合、営業所の専任技術者(専技)は、当該工事の専任を要しない配置技術者(主任技術者または監理技術者)になることができます。
- 当該営業所において請負契約が締結された建設工事であること
- 工事現場と営業所が近接し、当該営業所との間で常時連絡を取りうる体制にあること
- 所属建設業者と直接的かつ恒常的な雇用関係にあること
- 当該工事の専任を要しない配置技術者(主任技術者または監理技術者)であること
配置技術者が工事現場に専任すべき工事
では、配置技術者(主任技術者または監理技術者)が工事現場に専任すべき工事とはどういうものなのでしょか。
公共性のある施設や工作物、多数の者が利用する施設や工作物という重要な建設工事については、配置技術者(主任技術者または監理技術者)は、工事現場ごとに専任となります。
ここでいう重要な建設工事とは、工事一件の請負金額が3,500万円(建築一式工事の場合、7,000万円)以上の工事で、戸建て住宅を除くほとんどの工事が該当することになります。
また、専任とは、他の工事現場に係る職務を兼務せず、常時継続的に当該建設工事に係る職務にのみに従事していることを言います。
<重要な建設工事の配置技術者>
- 元請、下請の区別なく配置技術者(主任技術者または監理技術者)は専任
- 営業所の専任技術者は、現場における専任の配置技術者(主任技術者または監理技術者)と兼任不可
- 他の工事現場との兼任不可。
事例で考える
ここまで特定建設業許可の財産的要件と現場の施工管理体制、特に配置技術者(主任技術者または監理技術者)について概要をご説明してきました。
では、実際に、特定建設業許可を取得する場合について、簡単な事例を用いて考えていきます。
建設業者A社様が都道府県知事許可で管工事業の特定建設業の取得を検討されているとします。
常勤役員等(経営業務の管理責任者(経管))については、5年の経営経験の要件を満たしているものとします。
専任技術者(専技)には、一級管工事施工管理技士が社内に1名いらっしゃるので、この技術者を当てることにします。
では、この建設業者A社様は、特定建設業許可を取得できるのでしょうか。
また、特定建設業許可を取得してしまっていいのでしょうか。
先ずは、財産的基礎要件について確認します。
財産的基礎要件については、要件をひとつでも満足できなければ、そもそも手続を進めることはできません。
ここでは財産的基礎要件の4項目全てについて基準をクリアーしていると仮定します。
特定建設業許可を取得すると、元請業者として下請業者に総額4,000万円以上の工事を発注することができます。
この工事においては、元請業者として工事現場に置くべき配置技術者は必ず監理技術者となります。
この監理技術者になるための資格要件は、一級の国家資格者か国土交通大臣認定者となります。
建設業者A社様は管工事業を希望されておりますが、管工事業は指定建設業であり、監理技術者になれるのは一級の国家資格者のみとなります。
残念ながら、管工事業では実務経験と指導監督的実務経験で監理技術者になることはできません。
ここで、下請金額の総額が4,000万円以上と言うことは、当然、元請業者としての工事請負金額も4,000万円以上となります。
工事一件の請負金額が3,500万円(建築一式工事の場合、7,000万円)以上の工事では、配置技術者は、施工現場に専任しなければなりません。
従って、この場合、現場に配置しなければならない技術者は監理技術者となり、その施工現場に専任となります。
もうお気づきのことと思います。
建設業者A社様は、一級管工事施工管理技士は専任技術者(専技)に就任しますが、この技術者は営業所の専任となってしまいます。
その一方で、元請業者として請け負った工事で、下請業者に総額4,000万円以上の工事を発注する場合、その施工現場にも監理技術者を配置しなけれななりません。
この監理技術者も、管工事(指定建設業)のため一級の国家資格者でないといけません。
つまり、特定建設業許可を取得し、特定建設業者としてのメリットを享受しようとすると、一級の国家資格者1名だけでは、現場の施工体制を作ることができないのです。
頑張って、特定建設業許可を取得しても、事実上、一般建設業許可の範囲の元請工事か下請工事しか取り組むことができません。
更に、仮に建設業者A社様に複数都道府県にわたって営業所がある場合(国土交通大臣許可を希望)、各営業所にも、特定建設業の要件を満たす一級の国家資格者等の専任技術者を置く必要があります。
単に、建設業者A社様の本店に専任技術者(専技)として一級の国家資格者を一人置けば良いというわけではないのです。
特定建設業許可を取得する際の注意点(まとめ)
どうでしょうか、特定建設業許可を取得する際の注意事項について、ご理解いただけましたでしょうか。
特定建設業許可は、許可の取得時だけではなく取得後の要件や配置技術者についても厳しいルールが定められています。
特定建設業許可の取得の際には、取得のメリットと取得後の負担を事前によく検討する必要があります。
弊事務所では、建設業許可に関する各種申請書や各種変更届について、お忙しい建設業者様に代わって代行申請しております。
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